流行の無洗米、本当のところは???
最近、水環境改善のために、自治体などで無洗米使用をすすめる動きが出ております。しかし、私は、無洗米の知られざる面を調査中です。素人の思いつきから始まった調査の域を出ておりませんが、何かのご参考にしていただければと思います。
無洗米を取り巻く問題は幅広い分野にわたるためか、マスコミも自身の調査が出来ないままメーカーの受け売りに終始し、礼賛する記事や報道を見かけます。一部自治体では学校給食への採用なども検討されています。
しかし、私は、無洗米につき、調べれば調べるほど不信感を抱いております。業界に生かされている者としてこれでよいのかという思いです。是非、いっしょに考えていただくとともに、誤解等あれば何なりとご指摘� ��えないでしょうか。
無洗米は、要素還元主義の象徴的製品です。現代の私達は物事の全体像を把握せずに、全体を部分に分けて、それぞれの部分のみに対応するという方法論に 浸っています。ある部分を変更したり改善したりしても、それが他の部分にネガティブに影響していき、結果として全体が良くならない。逆に言うと、何かを良くしたければ、物事のつながり(関係性)を良く理解した上で、包括的なアプローチをしなければならない、ということを見失いがちです。 | 病気に対する西洋医学的対処もそうですし、最近の小中学校での完全週休二日制や総合学習の取り組みもそうです。文部科学省の主張する、「子供は学校の中だけではなく、地域の中でも教育されるべきである」ということは正論ですが、その地域の教育力が低下しており、神戸の少年事件の背景でもある「生活感のない無味無臭の地域」をどうにかする働きかけが同時に行われなければなりません。この実行には、官庁で言えば、経済産業省・国土交通省・農水省・環境省・厚生労働省が全体のベクトルを合わせて行動しなければなりませんが、果たしてそういう意識が政治家・官僚・マスコミ・国民にあるでしょうか。 |
無洗米は、そういう私達にとても似合いの商品です。環境に優しいという口当たりの良いフレーズは十分な検証が必要です。部分にとらわれて全体が見えないと簡単に売り口上にひっかかってしまいます。米(ヌカ)と水環境を考える時、最低限知らなければいけないことは、下水処理 (理論と現場と歴史)・精米工場から排出されるヌカの処理の現状です。市町村の給食担当者は、下水道担当者などに確認すれば良いわけですが、ほとんどそのような意識や情報の交換はないようです。縦割り組織という要素還元主義の弊害です。
昔は、もっと精米の悪い(精白度の低い)お米をもっとたくさん食べていました。 そして、ほとんどの台所排水は、今のような下水処理をされないまま、 河川に入っていきました。 そのとき、河川汚染はあったのでしょうか? この本源的質問を回避して、現在の下水道全体の問題をお米の研ぎ汁に集中させて 一般消費者に一面的な情報を提供することになってはいないかと、 お米に携わるものとして考えております。
無洗米を推進する理由は、以下のように説明されることが多いかと思います。
水質汚染の原因の大部分は、今や産業排水ではなく、生活排水である。 その中で特に注意が必要なのが、米の研ぎ汁である。 米の研ぎ汁は栄養価が高く、BODも高く、窒素・リンなどが大量に含まれている。 窒素・リンは現在の下水処理技術では大部分除去できないため、 川や湖、海に流れ、富栄養化を招き、赤潮・青潮発生の原因となる。 無洗米は、米ヌカを精米段階で除去しているので、研ぎ汁が排出されない。 また、除去された米ヌカは、肥料や飼料として利用されている。
多くのHPや掲示板で、「全国無洗米協会」などのPRを参考にして無洗米について肯定的に書かれております。また、マスコミでもCMが流れ、賞賛するような番組も放映されています。しかし、私は 色々と問題があると思っております。そこで、以下検証していきたいと思います。先述しましたが、無洗米については、以下メリットがあげられています。
1)環境に良い 2)美味しい・栄養豊富 3)ヌカの有効利用
さて、これは本当なのでしょうか?1.研ぎ汁は汚染の元凶なのか?
1−1:下水道があるところでは
テレビや雑誌での説明では、生活排水と台所排水という言葉の使い分けに気をつける必要があります。 生活排水が河川汚染の約70%ですが、生活排水はトイレ+生活雑排水(台所・洗濯・風呂)の集合物です。
これを説明せずに、意図的に、生活排水から話をはじめ、途中から、台所排水に話を変える、という説明の仕方で視聴者は誘導されてしまいます。
さらに、米ヌカのように植物由来のBOD(汚れの指標)は下水処理がしやすいと下水施設の現場の方も言われますし、さらに現在の活性汚泥法下水処理にとっては活性汚泥の形成が非常に大事な要素ですが(汚泥が形成されないと上澄み水の水質が良くならずにそのまま放流されてしまう)、この汚泥形成にも米ヌカは向いているとも伺っております。また、それを裏付けるような研究もあります。
また、広域下水道では、窒素・リンを除去する高度処理が導入されつつあります。
上記を簡単に整理すると、
1)窒素・リンの排出は、トイレが主要因
2)一方、米ヌカは、下水処理に向いている
3)窒素・リンの下水処理自体、良くなる方向にある
無洗米が環境に良いというふれこみは、 本来、水質を言うなら 森林・河川・湖沼・上水・下水・農業用水全体の体系で考えるべきところを、 米の砥ぎ汁をスケープゴートにしてミクロの問題を急所のように見せ、 一方、利便性だけで購入することにためらいを感じる消費者への免罪符とする巧みな理論です。
1−2:下水整備率が低いところではどうでしょうか?
自治体によっては、下水整備率が低いことを理由に、生活雑排水(生活排水からトイレを除いたもの)の環境負荷を少なくするために無洗米が必要だというロジックを見うけます。 しかしながら、この問題は根本から間違っていたといわざるをえません。
"サーキットブレーカーは失敗する可能性があります。"現在の下水処理を方法別に大きく分けると
1.屎尿(しにょう)は汲み取り(屎尿処理場で処理)、生活雑排水は 垂れ流し
2.屎尿は単独浄化槽で家庭で処理、生活雑排水は 垂れ流し
3.生活排水を合併浄化槽・コミュニティプラント・農業集落排水処理施設で処理
4.生活排水を広域下水道で処理
それぞれの方式での窒素・リン除去率を見ると
単位は% | 窒素 | リン |
---|---|---|
下水道 | 30 | 30 |
単独浄化槽 | 10 | 20 |
合併浄化槽 | 40 | 20 |
屎尿処理場 | 100 | 100 |
実は、汲み取りした屎尿を処理する屎尿処理場は 下水処理と同じ原理ながら 窒素・リンの処理はほとんど100%です。つまり、トイレを下水に流さなければ、窒素・リンについてはそれぞれ20%・30%分にあたる生活雑排水だけを考えればよかったわけです。
今、日本全国で広域下水道・コミュニティプラント・農業集落排水処理施設・合併浄化槽を普及させようとしています。せっかく、屎尿の窒素・リンが屎尿処理場で100%除去できるのに、下水整備率を上げて屎尿を同時に処理しようとすると、処理施設から排出される窒素・リンがとたんに増えるわけです。
私達は、下水整備率が上がることが 社会の進歩と発展だと信じていましたが、 下水を整備すれば、窒素・リンの排出が増えることも必然だとは知らなかったわけです。
『水辺はよみがえるか(飲水から水辺まで)』村上光正著、パワー社1999、P.184 から引用します。
このことについて、水処理学者の大御所、須藤は、 第5回シンポジウム「環境用水の汚濁とその浄化」(1998.5.21群馬高専)の特別講演で、 「下水道を普及させると確実に水環境が悪化する。そのことが分かっていながら、 関係者は川や湖沼がきれいになるような話をしてきた。 これからは、本当のことを言うべきである」 というような内容を強調して述べている。
窒素・リンのそれぞれ20%・30%の排出源である生活雑排水、その一部の台所排水の そのまた一部の米の研ぎ汁に目を奪われて、そこだけ改善すれば 水環境が良くなるような錯覚では本当の解決は望めないと思います。
広域下水道がない地方では、処理が中途半端な現在の施設を使用せざるをえない都市部より恵まれているはずです。土を生かした浄化を取り戻す可能性も残っています。能力の高い合併浄化槽(石井式など)の設置や三面コンクリートの水路の見なおしなど、いくらでもやるべきこと、出来ることはあります。
福岡県柳川を見ればそれがわかります。どぶ川と化した堀を埋めたて、下水道を敷設する市の計画を、担当の課長が白紙に戻して昔の掘割を復活させた話しです。土を生かした水処理の実例です。
参考●広松伝著「ミミズと河童のよみがえりー柳川掘割から水を考える」から
河合ブックレット 700円
1987年第1刷、河合塾での講演を本にしたもの
広松伝著、1937年生、柳川市役所環境課係長 (当時)
また、特に富栄養化の問題が最も大きい閉鎖水域(湖沼・内湾)の水質を良くするために、流域の下水整備を推進していますが、かなり整備率が上がっても水質が良くならないことが報告されています。
霞ヶ浦の例ですが 下水処理水の中に分解しにくい有機物が存在し下水整備率がアップしても湖沼の水質が良くならないという研究もあります。
湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究
研究者の方に、具体的に下水処理水の何が問題なのかを聞いたのですが、
「それがわからない」という返事でした。
問題は下水整備率にあるのではなく、本来日本に存在し欧州社会をも驚かせた、社会に組み込まれていた「土を生かした汚水処理」のシステムを後進的として退け、科学技術で汚水を水だけで処理しようとしてきた概念にあるわけです。
結局、「米の研ぎ汁」はスケープゴートなのではないでしょうか。
調べていくと、窒素・リンの過剰排出問題の本質は 食品の輸出入にあるようですが、それは 補足に多少書くだけで ここではそれ以上ふれないことにします。
2.美味しい・栄養がある
「アリューロン層」がうまみのもとだという概念は 業界ではそれなりに認知されていますが、本来は、お米ごとの美味しさの差を説明する理論です。美味しいお米は、アリューロン層が良く発達していると言われます。美味しいお米は、玄米でも胚芽米でも美味しいですが、アリューロン層はこのことと矛盾しません。しかし、精米の違いによる美味しさの差を説明するものではありません。
詳細は補足で説明します。
また、米の表面のビタミンが残るので栄養価が高い、とも言っていますが、本来お米の栄養分のほとんどはヌカと胚芽に集中しています。白米には精米の差で比較できるような栄養分はすでに残されていません。本当に栄養を取りたいなら、胚芽米か強化米を取ればいいはずです。
これなども、「差」の程度がわからない消費者を誘導する話です。
実際のデータについては、補足をご参照下さい。
そして、私の知るかぎり、業界関係者でおいしいと言ったところはありません。
「すかすかで、お米の味がしない。お米の旨み・甘味を感じない。」
という意見が多数を占めましたが、
「売れりゃそれでいい。どうせ、消費者の舌はどうにかなってしまっている。」
と無洗米を販売しています。
残念ながら、現在の米販売は不正流通がまかりとおっています。消費者も、まともに比較できるような状況ではありません。
また、消費者が無洗米を食べて美味しかった、という記事を見かけますが、共通して言えることは、産地や品種に言及がないことです。便利だから無洗米を食べているというある消費者の方は、
「無洗米は何を食べても同じ味がする」と教えてくれました。
日本中で色々なお米が作られています。同じ品種でも産地によって個性があります。農家による違いもあります。そういう個性が反映しにくい仕組みになるのかと思います。
また、炊いている時の湯気の香りがしないお米を美味しいと思う消費者をこれから作っていくのでないか、と思うと残念な気持ちになります。
過熱を把握する方法
3.ヌカの有効利用
今まで、家庭から排水されていたヌカが、無洗米工場では農家や園芸に引っ張りだこ、とPRされています。
しかし、お米の重量の約10%にあたるヌカは、主に(※)サラダ油を作るために油脂工場に引き取られていました。一方で、研ぎ汁の中のヌカは、ヌカの総量からすればわずかな量です。ほとんどはすでにリサイクルされていたわけです。
ここでも、無洗米協会は 米ヌカの全体像を見せることなく、総量からすればきわめて限定的な量を拡大して説明しています(なお、米ぬかの油抽出後の利用については後述するような研究があります)。
さらに、トップシェアの無洗米方式の工場から出る顆粒状のヌカは、油脂工場が引き取りません。処理に困った無洗米ヌカが飼 料・肥料に使えないか、検討しなければなりません。 しかし、発酵していないヌカはそのままでは大量に田畑にはまけませんし、生の状態では、厳密な栄養計算をしている飼料としても需要は限られています。
一部の情報では、無洗米の顆粒状ヌカを鶏卵用飼料である魚粉に混ぜて、容積を増やすということもあるそうです。(話はそれますが、バーゲン用鶏卵には肉骨粉、まともな卵には魚粉が使われているそうです。牛骨粉は禁止されましたが)。しかし、BSEの影響から、農水省は魚粉という名称では100%魚粉の物しか流通出来ないようにするとのことですので、ヌカを混ぜるという操作も出来なくなります。複合飼料という形では流通出来ますが、複合飼料自体の需要は減りつづけていますので、この分野での処分は難しいと思われます。
一方、協会・メーカーは、「米の精」という名称で無洗米ヌカを有機質肥料として販売しながら、有機栽培の推進に貢献しているとPRしています。実は、すでに米作りの現場では、米ヌカを除草目的に田にまくという「米ヌカ除草」という技術が研究・実施されています。「米ヌカ除草」は、ゆっくり肥料効果が現れる施肥技術としても注目されています。米ヌカの活用は、減農薬・減化学肥料からさらには有機栽培にまで可能性を広げるもので、「米の精」は、この新しい技術体系に便乗しているわけです。
しかし、一般の米ヌカと絶対的に異なることは、「米の精」を使用すると有機栽培にはならない、と考えられることです。有機栽培は、その田畑から出された物をその田畑に戻すことが原則で、地力改善など特� �な理由がある場合のみ他の土地から出された物を投入出来ますが、その場合でもすべて内容・出所・製造が明らかになっていなければなりません。ところが、「米の精」の場合、農薬・肥料の内容も分からないお米のヌカであり、さらには後述するように製造工程が秘密です。これでは、有機栽培の認証は取れないことになります。
「米の精」の販売は順調に進むかもしれませんが、決してそれはPRされているように、今まで無駄に捨てられていた物が有効利用されているという状況ではなく、また本当の有機栽培への貢献でもありません。
逆に、販売が順調に行かない場合、今まで出来あがっていたヌカのリサイクルに支障をきたす可能性もあります。
最悪、精米工場で下水に流されるとどうなるでしょうか。東京の下水局に� ��認したところ、50立方メートル/月の下水使用量にならない限りチェックは入らないそうです(一般家庭と同じ)。
このように、無洗米の利点については、かなり疑問があります。
(※)米ぬかは、全国で大体100万トン排出されます。
米業者では、その内、約80万トン排出、その60%くらいが、サラダ油に、
残りが 冬場のえのきたけの栽培土や飼料・肥料・漬物に回ります。
これまで、無洗米の主張を検証してきましたが、無洗米には幾つかの問題があるように思います。
1.無洗米機のブラックボックス
ある主流メーカーの無洗米機は特許申請されずに、中身はブラックボックスです。
フリージャーナリスト・舘澤貢次(『消費生活新報』3月15日号)さんの記事をご参照下さい。
毎日、食べる主食のお米の製造工程が秘密ということは、最近の「食の安全」という観点から見て、問題なしと言えるでしょうか?
また、2000年の夏場、このメーカーの機械による無洗米がかびる事件が発生しました。どうして、ヌカ分が表面についていない、つまり酸化が遅いはずの無洗米がかびるのか、メーカーは一切の説明をせずに、
「お米の水分が15%以上の場合、かびない保証はできない」とだけ通達しています。
そのために、一部大手卸から産地に水分を減らすように要求があり、このために、農家の手取り減少・食味低下・精米歩留まり低下がおこります。
水分を減らすと、米の同体積当たりの重量が減り、農家の手取りが減ります。また、精米による米の割れが多く発生し、そのままでは食味が低下しますし、割れ米を除去すれば、製品重量が少なくなります。
しかし、このメーカーの社長は、講演会� �「農水省食品総合研究所(現独立行政法人)が公表しているように(水分)が15%を超えると一気にカビが生えやすくなる」と居直っています。実際にこの研究所に聞くと、「お米の水分が15%を超えると、カビの種類が増える」研究結果はあっても、カビ自体が生えやすくなるという研究はないのですが。
2.災害に強い町作りへの影響
無洗米設備は、これまでの精米設備に比べると非常に高額です。一部の大手精米業者だけが買うことが出来ます。この傾向が進むと、卸も小売も在庫を持つ必要がなくなります。現在、地方の大型精米工場への精米委託が増えております。
経営者としては、在庫の資金やスペースを心配する必要がないのはありがたいことですが、いざ災害が起こった時はどうなるでしょうか? 現在、府中市の米穀小売商組合は、市と契約を結び、災害時の協力店舗となっています。玄米在庫が市内にない状態では、全く協力することが出来ません。
また、お米を研ぐという技術を忘れてしまった状態では、無洗米しか使用できません。
技術・設備・品物を分散化させておくことこそが災害対策であるにもかかわらずに、全く反対の方向に進んでしまいます。
水がない時に無洗米の方が良いのではないかという意見もあるでしょうが、本当に水がないときは、乾パンのような保存食を使用するしかありませんし、実は普通精米でも 研がなくても炊けます。
大事なことは、大変な何日間に、その地区に使える材料があることです。
今の消費者は、余分な米を自宅に置きませんし、何年か前 の米騒動の時は、たった一袋づつ余計に買われただけであのパニックになりました。
サージキラーの仕事はどのようにしますか?
3.環境悪化の懸念
無洗米設備では、最後に灯油を使ってヌカに熱処理を加えます。表向きは研ぎ汁を河川に流さないで済むということですが、裏側では エネルギーを使います。
また、あるメーカーの無洗米設備は中身が分からなくなっていて、品種を変えると設定を変えなければならず、
また設備が高額なために、一つの工場で多数品種を取り扱うことは難しいので、あらゆる品種を無洗米にしようとすると、配達ルートが多様化・少量化します。
小売は複数卸と付き合い、卸は複数工場と付き合う。すると、どうなるでしょうか?
非常に少量商品が流通するために、今までより多くのトラックが行き来します。
すなわち、東京都などで問題になっている排気ガス規制に逆行します。
1.参考HP
石井式合併浄化槽
石井式合併浄化槽設置体験
2.お米の美味しさに関する研究
なぜうまい 新潟米 秘密わかった。
三条市の食品研究・検査証明機関、県央研究所が、おいしいご飯はうまみ成分が多く含まれている糠(ヌカ)の層が、コメ中心部の胚乳部に霜降り牛肉のように深く入り込んでいることが、大きな要素であることを突き止めた。
研究によると、糠層の状態は産地や気候によって違うことがわかった。
山間部の良質米といわれるコメほど、糠層が根を生やしたように胚乳部に食い込んでいる。また、糠層をつくっている袋も丈夫なことも電子顕微鏡で証明された。
うまみの元であるアミノ酸が多く含まれている糠層が、精米後もコメの中にとどまるこの構造がうまさの秘密としており、このことからコメによって最適な精米歩合があると主張している。
またこのほか、でんぷん細胞内のでんぷん粒は山� �のコシヒカリの方が、平場のコシヒカリより小さいことも明らかにした。でんぷん粒が小さいほど、炊き上げたとき細胞膜を壊すことが少ないため、これもうまさの理由となっている。
図1が、「全国無洗米協会」の想定するお米の構造です。果皮・種皮・糊粉層がヌカの層と考えてください。図2が、無洗米による仕上がりで、図3が、手による研ぎを示しています。無洗米による仕上がりは、うまみ層を損なうことなく、きれいにヌカが取れるが、手による研ぎではうまみ層が欠けているうえにうまみ層の間にヌカが残ってしまう。結果として、無洗米の方が美味しい、という主張です。
しかし、上述の研究所によるお米(うまみ層)の構造は図4のようになるはずです。胚乳に根が生えたようなうまみ層、その深さが深いほど美味しい。これならば、美味しいお米が玄米でも分搗き米でも白米でも美味しいことと矛盾しません。
結局、環境に良いという主張同様、「全国無洗米協会」は、主張がわかりやすく単純化した絵で消費者を誘導していることがわかります。
「糠層は数種類の層より成っており、最下層はアリューロン細胞層である。コメの場合は、糠の最下層部が胚乳(デンプン層)の上層部に細かな根が生えたように複雑に入りこみ、線引きできないほどに分厚い境界線を形成しているのである。要するに糠層の下層から胚乳(デンプン)に至る間は、明快な境界がないものととらえるべきものなのである。」
これは新潟の研究所と同じことを言っているのです。にもかかわらず、このメーカーが主催する「全国無洗米協会」では、上述したギアの歯によるPRを行っています。本当のことを知りながら、製品の優位性を消費者に印象付けるために事実を捻じ曲げていると言っては言いすぎでしょうか?
3.お米の栄養調査
お米と卵の専門サイト 「直実」Naozane、というところでは、以下のように書かれています。これは、全国無洗米協会の提供データのようです。他にも同じデータが書かれていますので。
とがずに炊くから、天然ビタミンそのまま!
BG米は、天然のヌカだけで天然ヌカを除去していますので、
米肌にあるビタミンやナイアシンなどの栄養成分が流出することはありません。
つまり、従来のお米より栄養価が高いと言えます。
BG精米 | 従来精米 | 強化米入り(*) | |
---|---|---|---|
ナイアシン | 0.47mg/100g | 0.22mg/100g | 4.50mg/100g |
ビタミンB1 | 0.04mg/100g | 0.02mg/100g | 0.87mg/100g |
ビタミンB2 | 0.01mg/100g | 0.01mg/100g | 0.06mg/100g |
さも無洗米が栄養豊富のように見えますが、実際に強化米入り(玄米並みの栄養)と比べると非常に低いレベルの比較をしていることがわかります。なお、強化米入りデータは、武田薬品工業のパンフから転記されたものです。そして、実際のところ、比べられる「従来精米方式」のお米は栄養が多いほうにも少ないほうにも精米で操作できるのです。
4.米ヌカについて
4−1.処理に関して
ヌカ業者は、冬場以外は ほとんど油脂工場に持っていきます。冬場は、えのき(栽培土として)や肥料(原料として)にも持っていきます。相場がいいからです。夏場は 油脂工場以外持っていくところはないそうです。豆腐のおからよりはまだましですが、夏場は、すぐに油がしみだしてきます。油脂工場では、ふるいにかけて 小米・胚芽・ヌカに分けます。それぞれが商品(もしくは原料)になります。油を搾った後のヌカは、脱脂ヌカとして飼料用に販売される他、各種有効成分の抽出などにも使用されています。
無洗米ヌカの問題は、
1)ふるいでひっかかってしまい、小米や胚芽と混ざってしまう
2)課粒状のヌカは、溶剤がしみこまずに油が取れない。脱脂ヌカにもならない。
もし、無洗米 協会のいうように、ヌカが肥料や飼料に引っ張りだこなら、 なぜ 米ヌカ業者はもっとも相場の低い油脂工場に米ヌカを持っていかなければならないのでしょうか?
参考メーカーHP ボーソー油脂
築野(つの)食品
4−2.米ヌカが活性汚泥形成を活性化するという研究
米ぬかを下水処理時に添加すると、活性汚泥(汚水処理する生物)を活性化し、結果として排水中のBOD、CODを下げる効果がある。全窒素並びに全リンも米ぬかの添加による影響は見られない。 「無洗米と普通米のLCA比較」においては、「米の研ぎ汁が環境負荷がある」といった前提のもとに計算されていますが、その仮定が揺らぐ可能性があります。
4−3.米ヌカ利用研究
以下のように、米ヌカ自身やリサイクル過程の排出物も利用されています。無洗米ヌカは、この輪からはずれているだけでなく、ヌカ回収という業を壊してしまう可能性があります。
●「宝の山」米ヌカ廃油の利用法を追究 谷口久次さん
●脱脂ヌカを使ったセラミックスの開発
●現代農業1998年(平成10年)12月号 ここまでわかってきた米ヌカの底力
第1回米ヌカ国際シンポが明らかにしたこれだけの効用
5.日本の窒素・リンの収支 と 生活からの排出の様子
『水と水質環境の基礎知識』武田育郎 オーム社出版局 平成13年 より
P.66 (単位 10000トン)
日本の窒素収支 | 1970 | 1990 | |
---|---|---|---|
インプット | 食品輸入 | 61.3 | 104.7 |
漁業 | 28.2 | 26.6 | |
肥料 | 68.8 | 61.2 |
アウトプット | 食生活 | 33.8 | 51.7 |
食品産業 | 17.1 | 23.9 | |
畜産 | 3.9 | 6.2 | |
農地 | 25.7 | 27.4 |
P.70 (単位 10000トン)
日本のリン収支 | 1970 | 1990 | |
---|---|---|---|
インプット | 食品輸入 | 9.2 | 27.0 |
漁業 | 2.4 | 2.4 | |
肥料 | 28.5 | 30.1 |
アウトプット | 食生活 | 3.8 | 5.6 |
食品産業 | 1.2 | 3.5 | |
畜産 | 1.1 | 1.6 | |
農地 | 0.8 | 1.0 |
P.95
生活排水の原単位
(社)日本下水道協会:流域別下水道整備総合計画調査指針と解説、1999
グラム/人・日 | 生活雑排水 | トイレ | 計 |
---|---|---|---|
BOD | 40 | 18 | 58 |
COD | 17 | 10 | 27 |
全窒素 | 2 | 9 | 11 |
全リン | 0.4 | 0.9 | 1.3 |
【引用終了】
窒素・リンとも、増加傾向にあります。その原因は インプットでは 主に 食糧の輸入で、アウトプットでは 主に 食生活と食品産業で、まさに 表裏一体です。
以上から、あらためて
栄養(=土壌)を海外から輸入し、 食事の質を西洋化しながら、 一方で その栄養を 土壌に還元したり、輸入先に 戻すことなく 河川・海洋に放出していることがわかります。
また、排出源としてのトイレの大きさがわかると思います。上述したように窒素で80%、リンで70%です。さらに 生活雑排水は、台所+洗濯+風呂ですが、無リンの洗濯洗剤が当たり前になってきている一方で シャンプー・リンスには 今でも リンが含まれています。役所管轄が違うからです。そういう生活雑排水の中での、台所排水と その中での米の研ぎ汁です。前にも書きましたが、昔に比べれば はるかに研ぎ汁の栄養価は 低くなっています。
最近の海洋汚染の犯人は誰なのでしょうか?
私は、人間の産業活動とそれを支える私達の意識と生活にほかならないと思います。
あらためて、水環境や下水処理に関する書物を読むと、ふさぎこんでしまいます。研ぎ汁なんて ちっぽけな問題です。マクロ的視点、複雑系視点が なにより求められる、そう切に感じます。
貿易収支や食糧の輸出入に伴う 消費者としての便利さ(安い農産物が買えるなど)や外国とのあつれき(中国農産物へのセーフガード等)を考える前に� �
「農産物(栄養)=土壌だということ」
「その土壌がどのように出来るのか」
「それに お米がどのように関わってきたのか」
をたくさんの人に理解していただきたいとも思います。
6.返品の処理
ヌカ屋さんの話では、卸は大手量販店からの返品に困っているそうです。普通のお米なら、機械に戻せばよかった(ブレンド?)のに、無洗米は戻せない。どのように処分しているのでしょうか?
最新の話では、精米機に戻さずに直接 白米に混ぜているそうです。返品という困った問題は 無洗米に限った話では、ありませんが。
7.「全国無洗米協会」の実態
無洗米のPR,正しく無洗米を理解してもらう、という趣旨のようです。
無洗米協会のHPより引用します。
● 需要の拡大の前に統一規格を
無洗米の需要は増え始め、今後、本格的な拡大が予想されます。
そうした時期に、業界としてきちんとした統一規格を作り、
消費者の信頼を勝ち取っていく。
こうしたことが大切だと考えて、協会を作りました。
「業界として」「信頼を勝ち取る」「全国無洗米協会」とは言っても、実態は、あるメーカーとユーザー及びシンパだけ。他メーカーはいません。
そして、テレビCMや雑誌広告では 自社の機械で出来た製品だけに認証シールを貼り、これだけが安心して買っていただける無洗米、というシェア確保のための運動です。
また、機械メーカー間では、昔の水洗い無洗米機の特許をもとに訴訟が争われています。訴えているメーカーは、最近の機械は技術公開しておりません。「業界として」と言えるような状況ではないわけです。
以上、
富山和子さんの言われる「水と緑と土」の循環を回復させたいと思い、本当にすばらしい水環境を取り戻すための啓蒙や運動が必要と考え、良心から無洗米を販売できない米屋のたわごとです。ご参考になれば幸甚です。
便利なことは間違いありませんので、消費者の方が無洗米を使うことを批判しているのではありません。この点は、ご留意下さい。バリアフリー的商品であるとの指摘もあり、その点 異論はありませんが、そのようなセグメント的な販売では元が取れない高額の製造体系ですので、米販売の主流にしようという運動は終わらないと考えます。
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